私は反逆者であり国家を否定する人間と思われた事が過去にあったようだ。
それも満州時代、子供ながら「お国の為に、天皇の為に死ね」―と教えられ、それを疑わず、朝、学校に登校する時は近所の子供(小学生)と整列して行進―。学校では校門に入る前にまず敬礼―。そして、右側にあった天皇の写真と勅語が入った神社に最敬礼をして―という生活であり、「爆弾を担いでソ連軍の戦争に飛び込め」―と言われた。それを信じた。
ところが戦争に負けたという話が流れると警察署はカラになり、近くの交番は支那人に焼かれ、警察署に入ってみると裸にされて殺され、逆さに吊るされた警官と思われる人体が10体程あるのを見て帰って来た。
誰も守ってはくれない、日本の軍隊もいない、父親は公務で出掛けて不在であり、止むを得ず長男であった私が家の中にあった日本刀を持って玄関横の部屋に座る事となった。
支那人の襲撃が一部にあり、隣り近所の人もバラバラであった。10日程してソ連軍が入って来た外蒙古の人達の軍隊であり、外蒙古囚人部隊と言われていた。
日本人宅も支那人宅も襲われ、金目の物は持って行かれ、「女」と見れば強姦された。「強姦」という事を、その時初めて知らされた。マンドリンと呼ばれていた機銃を突きつけて、6人の兵隊が支那人か日本人か判らぬ女性(素っ裸なので判らぬ)に対しての隣の家の庭の芝生の上での輪姦は、少年の私をひどく傷つけた。隣の日本人の男性がその場に顔を出すと、すぐに銃で撃たれて死んだ。その折、私の心からは「国家」「天皇」という概念は何時の間にか消えていた。
死ぬ思いをさせられ、栄養失調(後で判った)と空腹で引き揚げ船に乗り、日本へ帰り父親の故里へ行った。
親戚からはある意味でやっかい者、学校ではある意味で引き揚げ者という目で見られていた。「日本人」とは―、「日本国」とは何か?―と思っていた。
何とか貧乏しながら親類の「叔父」「叔母」の協力で高校(旧制中学半分)を卒業し、旅費と1ヶ月分の飯代を持って上京、大学に入った。
大学に行っていた友人の兄貴がいたので頼み込み、「身体」をこわす危険なアルバイトをして入学金(4千円)を1週間で得て、大学へも無事入学出来た。その折、父親が上京して来て、「俺の従兄弟が国務大臣(自治庁長官、行政管理庁長官)をしている本多市郎なので連れて行ってやる」―と、国会と大臣官邸に連れて行ってくれた。
本多大臣から言われた最初の一言は、「公正、『赤』はいかんぞ(共産党の事)」―であった。
本多大臣の口利きで自治省の中央選管にアルバイトに入った。しかし1ヶ月でクビになった。クビになった理由は「ケンカ」である。
本多の叔父は寛大な人柄であり、仕事の世話はしないと言ったが、今で言う私設秘書として2ヶ月間置いてくれ、1ヶ月1万円の金をくれた。大学卒の役人が6千円の初任給だったので上等だった。大磯の吉田茂邸宅にも連れて行ってくれて、吉田総理にも紹介してくれた。しかし、私が天皇と国家に不信を持っている事がばれてクビとなり、米軍の府中のオードナンス(爆薬保管部のオペレーター、内部電話交換手)としてアルバイトを始めた。その折、「米軍の動きはどうかね」―という事で、共産主義者の徳田球一や志賀さんと知り合った。しかしそれが2ヶ月もしない内にバレて又もやクビになったのである。ガイコツマークのあるスペースだったので危険手当がついて高い日給だった。
赤色革命でも起こすのかと思っていた左派の連中にもその気がなく、命が大切な感じがしたので、学校でフラフラしている時に大学の学生部長の星野先生と知り合いになり、それが縁で友人の(TBSに後でなった)毎日新聞の田中さんや東京新聞の唐島さんと知り合う事になった。その折、よく国鉄新橋のガード下の酒屋で顔を合わせた人に、名前は記さないが三無事件の4名の人と知り合う事となった。もっともその人達を紹介したのは1年後輩の川下佳節という学生であり、三無塾という研究会をやっていた。千葉県の市川市在住であり、私はそこの相談役的立場になっていた。旧軍部の先輩と会ったのもその頃であり、「この今の日本はおかしいぞ、アメ公かぶれしやがって」―と息巻いていた男が川南豊作だった。
私は川下に頼まれて、応援団の元気のいい奴をスカウトしてその塾に紹介していた。ところが(36年と思ったが)三無事件(クーデター未遂事件)を起こして、その関連で私も引っ張られ、その為、ブン屋として働いていた新聞社をクビになり、腹が立ったのでそこの社長をぶん殴り、又もや失敗をしたのである。その折、共同通信の論説委員長をしていた中島さんと知り合い、その人の娘さんと同棲していた関係があり、佐世保の辻一三氏や坂田重保さんとは、親戚であった当時の長崎県知事の佐藤勝也の口利きで知り合った。そんな暴れん坊が佐世保の高校出身者であり島原中、北有馬(南高地区)卒業生となって、軍港新聞の後の九州時事新聞に帰る事となったのである。 (次回へ続く)
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